a. 新鮮血輸血は赤血球濃厚液輸血に比べ、循環系への負荷が大きい。
【赤血球濃厚液の利点】
① 全血に比べ輸血による循環系への負荷は少なく、老人・心不全患者・小児の輸血に有利である。
② 保存液中のクエン酸塩の量を少なく、副作用を減らせる。
③ 血液中のアンモニア・Na・Kの量を減らせるため、心疾患・肝疾患・腎疾患の患者によい。
④ 血漿成分が除去されているので、各種アレルゲン・抗体が少なく、副作用が軽減する。
⑤ 赤血球以外の血液成分を有効活用できる。
出血量600~1200mlないしは輸血量5Uぐらいまでは、赤血球濃厚液で対処可能である。
MAP濃厚赤血球は、2~6℃で21日間保存可能。
緊急時には、血液型判定をせずにO型赤血球濃厚液を使用しても、臨床上問題となる溶血はまず起こらない。アメリカではO-(血液型O Rh-)を使用する。
b. 体重60Kgの場合、濃厚血小板液1単位で血小板数は2000~3000/ul増加する。
・濃厚血小板液は室温・水平震盪で3日間もつ。
・止血を期待するには、5万~8万/ulが必要である。
・循環血液量の50%の大出血で、血小板補充の適応となる。
・成人で1回に10~20Uを必要とする。
・血小板の寿命は約8日間である。
c. 新鮮凍結血漿(FFP)は解凍後、3時間以内に使用しなければならない。
・アルブミンは肝臓で1日約12g合成され、血清総蛋白の約60%を占める。
・血友病A>>第Ⅷ因子製剤(クリオプレシピテート)
・血友病B>>第Ⅸ因子製剤
・FFPの投与目的は、複数の凝固因子欠乏による出血傾向の是正である。使用に際しては、PT・APTT・Fibを測定する。
・凝固因子の血中レベルを20~30%に上げるには、体重50Kgで400~600ml(5~7U)である。
・2単位=160ml
d. ABO不適合輸血後、24時間以内に血管内溶血にて黄疸が出現する。
ABO不適合輸血時の治療指針
九州大学医学部附属病院輸血部 稲葉頌一
即時型不適合輸血が疑われる場合の対処
最初の処置
1. 輸血を中止
2. エラスタ針は残したまま接続部で輸液セットを新しいセットに交換
3. 乳酸リンゲル液をつなぎ、最速で点滴
4. 導尿
5. 10mlヘパリン採血を行い、血液型を再検
治療
1)腎不全への対処
即時的対応、乏尿期の対応、利尿期の対応の3段階に分かれる。
1) 即時的対応:
早期であれば乳酸リンゲル液3lを2時間程度で急速投与して利尿を図る。
血管内溶血の存在が明らかになった場合には直ちに、腎血流を維持するための処置を行う。
a) 循環血液量の是正
b) ドパミンの投与(3~5μg/kg/min)
c) 利尿剤の投与(Frusemide 250mgを4時間以上かけてDIV)
1ml/kg/hr以上の尿量を確保する。
2) 乏尿期の対応
A) 集中治療室を持たない病院での対応
1) 肺水腫の予防:水制限 尿量+不感蒸泄量(約500ml/day)
2) 高カリウム血症の予防:
1. 24時間心電図モニター
2. 血清カリウム値測定(4時間ごと)6mEq/Lを超えれば直ちにGIK療法開始(糖液は50%を用いる)
3. 不整脈が見られる場合、緊急の対応として10%塩化カルシウム10~20mlをIV
4. 糖液中心の高カロリー輸液を行う。(catabolismによる組織細胞からのカリウム排泄増加の予防)
5. 代謝性アシドーシスの補正として、重炭酸ナトリウムの投与はできるだけ避ける
(ナトリウム過剰負荷や、炭酸ガスの過剰産生を起こさないため)
6. BUN,Creatinineは毎日測定する
7. 腎臓内科医のコンサルトを依頼する
血液透析の適応*
1.高カリウム血症7mEq/Lを超える場合
2.人工呼吸を必要とする肺水腫
3.BUN上昇が30~50mmol/L(180~250mg/dl)を超える時、またはCreatinineの上昇が0.7~1.5mmol/L(7.9~17.0mg/dl)を超えるとき。あるいは動脈血ガス分析で重炭酸値が12mmol/L以下の時。
4.尿毒症による意識障害
(*: PL. Mollison [Blood Transfusion in Clinical Medicine 9th Ed. pp512]より)
この英国基準はやや厳格すぎる。我が国ではBUN 120mg/dl以上、Creatinine 6.0mg/dl以上、HCO3- 15mmol/L以下で透析を開始して良いと思われる。
B) 集中治療室を持つ病院での対応
即時型不適合輸血と診断されれば、直ちに集中治療室に収容、乏尿と判断されれば持続血液濾過透析(CVVHD)を行い、腎機能が十分に回復するまで厳重な体液管理を行う。
3) 利尿期の対応
水分のみならず、電解質も補充する。尿中排泄電解質量を毎日測定して輸液メニューを作成する。
食事中の蛋白質はBUNが20mg/dL以下になるまで制限する。
1)DICへの対処
出血傾向の制御
1. 血漿・血小板を投与し、凝固系を補正し、循環血液量を維持する。
2. 赤血球輸血は適合であることが確認できるまで行わない。
3. どうしても必要な場合、O型血を輸血する。
薬剤によるDICコントロールには確立された治療法はない。明らかな出血傾向に対して、
文献的には
ヘパリン5000単位IV、以後1500単位/時で6~24時間持続投与(DIV)
しかし、ヘパリンは分娩後出血のように出血創面が大きな場合は、出血傾向を助長させるおそれがある。
現在ではほとんどの場合
FOY1000~2000mg/日、DIVが実施される。しかし、効果と費用の面で問題がある。
いずれにしても、死亡原因となる出血、肺水腫、高カリウム血症、腎不全に対して対症的に適切な処置を行い、腎機能が回復するまでの間、生命維持を行えば長くとも3週間で回復する。
以下の薬剤は高価なばかりで治療効果が明らかでない。
ステロイド大量投与
ハプトグロビン投与
FOYなどのプロテアーゼ・インヒビター投与
AT-III製剤投与
血漿交換・交換輸血
☆輸血に際しては、バイタルサインやショック指数などを参考にまず出血量を判断し、それぞれの出血量に対して、輸液や輸血の方針が決まっている。
ショック指数=脈拍数÷収縮期血圧
ショック指数1、1.5、2は、成人では1L、1.5L、2Lの出血量と考える。
輸血を考えるのは、Hb<8mg/dl
不足量=〔{(目標Hb-患者Hb)×男性72(女性68)×体重Kg}÷100〕×(100÷15)