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平成17年度救急科専門医試験
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28歳の男性。オートバイ運転中の交通事故で脾破裂をきたした。動脈塞栓術によって止血し、血行動態も安定したが、貧血が進行してヘモグロビンが6.3g/dlまで低下した。そこで、濃厚赤血球液4単位を4時間で輸血する予定で開始したところ、開始2時間後に悪寒、発熱、呼吸困難を訴え、喘鳴、低血圧、低酸素血症を呈した。胸部エックス線で肺野に浸潤影を認めたが、心拡大や肺血管陰影の増強はなかった。
考えられるのはどれか。3つ選べ。
a. アナフィラキシーショック
b. TRALI(transfusion-related acute lung injury)
c. GVHD(graft versus host disease)
d. 過剰輸液による肺水腫
e. 血液の細菌汚染による感染性ショック

【 正解 】 a,b,e

(参考文献)
輸血関連急性肺障害       
    
Transfusion-related Acute Lung Injury (TRALI)
 輸血関連急性肺障害(TRALI; transfusion-related acute lung injury)は白血球による輸血副作用としては最も重篤な副作用である。理由は不明であるが、TRALIの報告はわが国では大変少ない。
1.原因・病態
  原因の多くは供血者血漿中に好中球(NB2特異性、NA2特異性、5b特異性)やリンパ球(HLA-A特異性、 HLA-B特異性)に対する抗体が存在するためであると考えられている。従って、原因となる血液の提供者は複数回の妊娠歴を持つ女性献血者である。輸血すると血液製剤中の抗白血球抗体が受血者白血球あるいはリンパ球と反応し、補体が活性化されTRALIの症状を呈すると考えられている。しかしながら、一部症例では受血者血清中に好中球に対する抗体を認め、輸血製剤中の好中球と反応するためTRALIを引き起こしたと考えられる症例も報告されている。
 しかし、最近では血液製剤中に保存中に蓄積してくる脂質(好中球を活性化する性質を持っている)やサイトカインのIL-6やIL-8が原因ではないかと言われている。
 TRALIを引き起こす血液製剤としては全血製剤、赤血球製剤、新鮮凍結血漿、血小板濃厚液などであるが、高力価抗体を含む血液の場合、血漿の大部分を除去したMAP濃厚液でも報告されている。また、健康な男性ボランティアにHLA class I、class II抗体を含むIVIGを投与した場合にも発症したとの報告がある。
 TRALIの詳細な発症機序は詳しくは分かっていない。摘出ウサギ肺を用いたin vitro実験で5b抗体を投与すると血管からの激しい血漿漏出が認められたが、ウサギ補体を不活化した系では変化がなかったとされている。また、in vivo試験では活性化されたC5のフラグメントを静注するとウサギは肺に炎症を示し、白血球が遊走し、浮腫を生じてくるとのことである。これらの実験からTRALIには補体の関与が不可欠であると考えられている。
2.症状
 TRALIは輸血後4時間以内48時間から96時間以内に改善・消失する。死亡率は5%と報告されている。に発症する副作用で、寒気発熱呼吸困難喀痰を伴わない咳低血圧低酸素血症などが主な症状である。胸部レ線上、多数の結節下肺野に浸潤影を認め心拡大や肺血管陰影の増強がないことなどが特徴的である。これらの症状は
3. 治療
 TRALIの治療には迅速で積極的な呼吸管理が不可欠である。気管内挿管、酸素投与、機械的人工呼吸が必要である。血圧低下に対しては昇圧剤の投与、輸液の投与を行う。ステロイドの効果については意見が一致していない。
4. 防止対策
 TRALIは白血球抗体に由来する最も重篤な輸血反応であり、発症頻度は高いと思われる。大部分はドナー血液中の白血球抗体がその原因である。HLA抗体、顆粒球抗体、5b抗体がその原因である。本来、健康な患者で発症しうる。検査法としては免疫蛍光法(顆粒球抗体)やLCT(HLA抗体)を用いた白血球クロスマッチが考えられるが、現状ではスクリーニングシステムとして機能していないので予防できない。今後、保存前白血球除去が一般化すれば、TRALIの約10%を占める患者血清中の白血球抗体と輸注された白血球の組み合わせで起きる症例を予防できると思われる。
 
 
輸血後GVHD

概念
しかし、輸血中の残存リンパ球が、受血者の体内で制限を受けず増殖し、ついには受血者の正常な体組織を傷害するに至ることがあり、これを輸血後GVHDと呼ぶ。

原因
原因ははっきりとは確立されていないが、以下のようなことが考えられている。
HLAが提供者と受血者で類似している
HLAの一方通行適合(one-way match)と呼ばれる「供血者のリンパ球にとって受血者は異物であるが、受血者にとって供血者の血液を異物として認識できない」状態があり得ることが知られており、このようなケースでは供血者のリンパ球は、受血者の体内で攻撃を受けずに増殖できる。親族間での輸血で発症率が高いことはHLA適合が重要な役割を果たしていることを説明している。
輸血後GVHDは、老人や免疫不全時、手術時に高頻度で発生する。HLAが類似しない供血者からの輸血時に起こるGVHDはこちらが原因だと考えることができる。 ただし以前は受給者が免疫不全状態にある場合にのみ発症すると考えられていたが、現在では免疫正常者にも発症することが知られている。そのため、

症状
輸血から12週間後に以下の症状が起こる。
これらの症状は激烈かつ難治性であり、ほとんどの場合、骨髄無形成をきたして程なく死亡に至る。多くの症状があるが、急性GVHDの標的は皮膚、消化管、肝臓、慢性GVHDは他臓器におよびというイメージで推定は可能である。

予防
リンパ球を失活させる方法であり、非常に有効。
  • 自己血輸血を行う
  • 近親者間での輸血を避ける
  • 不必要な輸血を行わない
なお輸血製剤中の分裂能を有するリンパ球は時間とともに減少することから、一般的に新鮮な血液ほどリスクが高いとされるが、その他のより頻度の高い輸血関連合併症を考慮すると、「古い血液を使う」ことは予防法として勧められない。

治療と予後
輸血後GVHDは、ひとたび発症すると致死率が非常に高いことで知られ、ほぼ全例が致死的経過をたどる。2004年現在、日本における生存例は1例のみとされている。増殖したリンパ球が組織内に侵入するため、血漿交換も意味がなく、治療は非常に困難である。
なお、自己血輸血後にもGVHD様の激烈な全身免疫反応が稀に起こることがあり、「自己血GVHD」とも呼ばれる。古典的なGVHDの定義からすると自己血輸血後のGVHDは理論上起こらないはずであり、その頻度や正体は不明である。
 
輸血によるアナフィラキシー・ショック
 
1. 原因・病態

アナフィラキシーは型アレルギーである。
* I型アレルギーについて
1.特異抗原(アレルゲン)、肥満細胞および好塩基球上のIgEレセプター、特異的IgEが反応し、ヒスタミンなどのメディエーターが放出され、種々の症状が引き起こされる。
2.症状は、じんま疹から喘息、心血管性ショック、呼吸停止による死亡まで幅が広い。
3.IgEを介する反応以外でも類似の症状が認められる。
4.一般に第1回目の抗原感作では何も反応は起こらず、2、3週間後に同じ抗原を投与すると激しい反応が起こる。
 
輸血で認められるアナフィラキシーの原因は、完全には解明されていない。現在考えられているものは、
1) 抗血漿成分抗体
   IgA欠損症で抗IgA抗体を血中に有している人にIgAを含む通常の血小板および血漿を輸血するとアナフィラキシー様ショックを起こす。これは主に白人に見られる。日本人は白人に比較してIgA欠損症が非常に少なく、また抗IgA抗体を有している例も少ない。同様に抗Chido(C4dアロタイプ)抗体でアナフィラキシー様症状が認められている。最近抗C2および抗C4抗体が蕁麻疹に関与していると報告されている。
2) 抗ペニシリン抗体
 抗IgA抗体の場合と同様に、ペニシリンアレルギーの人がその血中に抗ペニシリン抗体を有していた時、ペニシリンを含んだ血液製剤の輸血を受けて発熱、斑状丘疹を認めた例がある。また逆にペニシリンの投与を受けていた人が抗ペニシリン抗体を含んだ血漿の輸注を受け、全身に斑状丘疹を認めた例が報告されている。このように特定の物質にアレルギーを示す人がその特異抗体を有している場合、特異抗原を含む血液製剤の輸血を受けてアレルギー性副作用を認める場合があると推定される。また逆に特異抗体を含んだ製剤の輸血で副作用が発現する場合もある。卵や牛乳などの食物もこれらの反応を引き起こす特異抗原になり得ると考えられる。
3) 白血球除去フィルター
  ある特定の材質の血小板製剤用白血球除去フィルターが呼吸困難、血圧低下などのアナフィラキシー様副作用を引き起こすことが認められている。このフィルターを用いて血小板を輸血すると繰り返し副作用が発現するが、他の材質の血小板製剤用白血球除去フィルターを繰り返し用いても副作用は発現しない。また副作用を認めたフィルターを用いて血小板製剤の血漿成分を輸血すると副作用を認めないが、このフィルターを用いて洗浄血小板を輸血すると副作用を認める。これより血小板製剤中の血球成分とフィルターが反応して特異抗原が産生され、それが血中に入って副作用が発現したと考えられている。
4) エチレンオキサイド
  血液透析患者においてエチレンオキサイドガス滅菌の血液回路でIgEを介したアナフィラキシー症状が認められている。輸血用回路などの一部はエチレンオキサイドガス滅菌であるのでエチレンオキサイドが輸血副作用の一因となり得る。
などがある。

 2.
 症状・診断

アナフィラキシー症状は下記の1または2である。
1.呼吸困難、全身紅潮、血管浮腫(顔面浮腫、喉頭浮腫等)、蕁麻疹のうち、複数が合わせて発現した全身的の症状。
2.アレルギー性と考えられる急性で重篤な呼吸困難。

注1:上記の症状に血圧低下・チアノーゼ、末梢循環障害(ショック)が加わった場合、アナフィラキシー・ショックと診断する。
注2:特異抗原と特異的IgE抗体が証明されている場合はアナフィラキシー症状と言い、証明されていない場合はアナフィラキシー様症状と言う。


1.血圧低下、末梢循環障害(ショック)
2.呼吸困難
3.血管浮腫
4.嘔吐、下痢 などの消化器症状も見られる。
は眼瞼、口唇、喉頭などの浮腫が多い。
は気管支攣縮、喉頭浮腫などによる。
はアナフィラキシーとして特異性が高い症状である。
 
 
 
 
 
輸血による感染性ショック
次の症状の内、どれか1つ以上が輸血後4時間以内に起こった場合
           (1)発熱(39℃以上又は2℃以上の上昇)
           (2)悪寒
           (3)頻脈(120beats/min以上又は40beats/min以上の増加)
           (4)収縮期血圧の変化(30mmHg以上の増加又は減少)
血小板製剤に多い。
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